自室で寝転がって本を読んでいる父親に、

 まず長女が「お父さんあのさー!」とのしかかり、
 三女が「お父さん遊んでー!」とのしかかり、
 次女が「お父さんあんねー」とのしかかり。

 寝転がったまま黙々と読書を続ける父親の上で自由気ままにテンションをあげる三人姉妹の元に、突然ドアをバァンと開けて、

だめー!! お父さんはお母さんのって言ってるでしょー!!

 と母親登場




 わたしが幼かった頃、ほぼ当然だった休日の風景です。


 仲の良い家族だったなぁ……というか、みんなお父さん好きだったなぁと思います。

 うちは典型的な女系家族で、父は一人っ子、母は四人姉妹の三女
 かつ生まれてきたのも全員娘

 無慈悲すぎる家庭内男女比でしたが、俗に言う「お父さんのパンツと一緒に洗濯しないで」的な反抗期もなく、むしろ至って穏やかに、みーんな父親が好きでした。




 成人してしばらく経った頃、当時のことをなんとなく父に話しかけたことがありました。

 「うち、本当にお父さん大好きっ子ばっかりだったよねー」と。
 「でもなんで、こんなにお父さんのこと大好きなんだろうね?」と。

 お酒の入っていた席で、父はしばらく無言でビールを飲んでいましたが、ややあって言いました。


父「うちの子がね、みんなお父さんを好きなのはお母さんのおかげなんよ」

四「ふぁい?」

父「お母さんが、子供がお父さんを好きになるように差し向けたんよ」


 と、普段無口な父は、お酒のせいかいつもよりにこにこしていました。





 うちの父は無口です。
 口下手というか、言葉をじっくり選ぶタイプの人で、結果的に言葉数の少なくなってしまう人でした。

 大人とのコミュニケーションはそれで良いかもしれませんが、父は子供相手には特に無口になってしまう自分も自覚していたそうです。

 母と結婚し、長女が生まれる少し前の頃、父はぼそりと母に相談しました。


 「子供に好かれる自信がない。子供が自分を怖がったらどうしよう」と。


 ただでさえ背の高い父は、小さな子どもが見上げれば威圧感もたっぷりだったでしょう。

 けれどそんな父の不安を、母は笑って吹き飛ばしました。
 「任せといて」と笑ったそうです。



 母がとった作戦、それは。
 「お母さんはお父さんが大好き!」と全身全霊でアピールすること。

 幼心に覚えているのですが、

 母はいつ聞いても一番好きな人は「お父さん!」と即答したし、
 娘三人がお父さんに構ってもらいに行くと「だめ! お父さんはお母さんの!」と飛び込んできたし、
 「お父さんは本当にかっこいいんよ」と何度も笑ってくれました。

 悪い言い方をすれば、暗示、洗脳に近いかもしれません。
 父は仕事がとても忙しかったから、実を言うと思い出の数はそんなに多くないのです。

 でも母の愛は、たしかにわたし達に「お父さんが大好き」という気持ちを芽生えさせてくれました。


 うちが本当に貧乏で、お金に困って一度だけ泣いた母を見た記憶があります。
 けれどそれ以外は、本当に、わたしの家庭は「お父さんが大好き」で回っていました。


 「うちはお母さんの手のひらの上なんよ」とお父さんはにこにこ笑いながら、ずっとビールを飲んでいました。






 母には一生かなわないなぁと思います。
 わたしの永遠の理想のタイプは、「お父さんみたいな人」なのです。


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